母乳にまつわるおさらい
私は出産後、赤ちゃんが生後2ヶ月半になるまで母乳外来に通いました。
授乳量は徐々に増えていき、70mlほど直母で飲めるようになったところで母乳外来を卒業することになりました。
8ヶ月で職場復帰しましたが、1歳まで授乳継続。
今回は、母乳の基礎知識、直母のメリットやデメリット、生後2ヶ月までの各種数値、母乳とミルクの混合で育児をすすめていくなかで私の感じたことなどをまとめてみました。
ちなみに、私のとった対策に関するダイジェストは以下の記事をご参照ください。
母乳はどんな味、色、匂いか・どんな栄養、免疫があるか・粉ミルクとの違いとは
母乳は血液から濾されてできる乳液で、授乳期中に母親の乳腺から分泌されます。
かんたんに、母乳の特徴をまとめてみました。
よく知られた内容ですが、おさらいです。
母乳は甘くて少ししょっぱい美味しい栄養ドリンク
まず母乳の味ですが、わずかに塩辛いものの、基本的に甘い味がします。
大人が飲んでも意外に美味しい。
母乳の色は、生後数日から2週間程度は淡黄色ですが、その後は白っぽくなっていきます。
ほのかに甘い匂いがあり、赤ちゃんの吐息も同じ匂いになります。
母親の体調によっては血の匂いに感じられたり、生臭く感じられたりすることもあります。
母乳に含まれる発育や神経の発達に必要なすべての栄養
発育 | 神経系の発達 | 免疫成分 |
・脂肪 ・タンパク質 ・炭水化物 ・ビタミン ・ミネラル |
・DHA ・AA ・ホスファチジルセリン ・α-リノレン酸 ・タウリン |
・シアル酸 ・ガングリオシド ・母乳オリゴ糖 ・リボ核酸 ・ポリアミン ・ヌクレオチド ・スフィンゴミエリン |
出典:雪印ビーンスターク㈱
母乳は、赤ちゃんが必要とする栄養素を全て含んでいます。
88%は水分ですが、そのほかに、赤ちゃんの発育に必要な脂肪、タンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、赤ちゃんの脳や神経の発達に重要なDHAやAAがバランスよく含まれています。
そして特筆すべきは免疫力を高める成分です。
以下参考:なに?なぜ?母乳成分辞典
口から侵入する病原体から赤ちゃんを守るために母乳に含まれる免疫成分
特に、赤ちゃんの口から侵入する病原体から赤ちゃんを守るための成分が母乳にはたくさん含まれます。
母乳には、口から進入してきた病原体が消化管に付着するのを防ぐシアル酸や、シアル酸と乳糖とセラミドが結合したガングリオシドが含まれます。
ガングリオシドの構造
ポリアミン、ヌクレオチド、スフィンゴミエリンも消化管のバリア機能を強めます。
母乳オリゴ糖は、赤ちゃんの腸の中でビフィズス菌などの善玉菌をそだてるほか、受容体類似体としてロタウイルスなどが腸につくことを防ぎます。
母乳に含まれる免疫グロブリン(IgA)で赤ちゃんが遭遇しそうな病原体に対抗
母親の体内では、母親が過去に感染したことのある病原体を排除するために免疫グロブリンがつくられ続けます。
Yの形の図はよくテレビでみかけますよね。
母乳には母体でつくられた免疫グロブリンが含まれていて、暮らしの中で遭遇しやすい病原体から赤ちゃんを守ります。
5種類ある免疫グロブリンのうち、消化酵素の分解を受けにくい構造となっているIgAが母乳には多く含まれていて、赤ちゃんの体内でも強い活性が維持されます。
母親の乳房で赤ちゃんの感染状況をタイムリーに把握して、腸内で必要な抗体をつくり、母乳で供給するといったメカニズムを確認した研究もあります。
母乳は生きた細胞が含まれ、母親の免疫力が母乳を通して赤ちゃんに渡る
母乳は母親の血液からつくられていて、生きた細胞がたくさん含まれています。
たとえば、母乳中の白血球は血液中と比べて数百倍あります。
白血球は、赤ちゃんの胃や腸でウィルスや細菌を食べたり、赤ちゃん自身の免疫反応を促すようなサイトカインを分泌したりするほか、母乳自体を殺菌して衛生状態を保ちます。
搾乳してしばらく保存できる。
また、さまざまな幹細胞が、赤ちゃんのさまざまな臓器の発達につかわれています。
母乳は過剰な免疫反応から赤ちゃんを守る
また、母乳は過剰な免疫反応から赤ちゃんを守るはたらきもあります。
母乳中のリボ核酸は、赤ちゃんの食物アレルギーの予防に重要な役割を果たすことがわかっています。
また、授乳中に母親の食べていたものについては、赤ちゃんの免疫反応が抑えられる傾向があるという研究結果が示されています。
母乳と粉ミルクとの違い
粉ミルクは、牛乳や大豆、米、またはその他の植物性原料から作られ、栄養素が添加されています。
免疫力を高める成分は含まれていません。
母乳は赤ちゃんの成長に応じて栄養素のバランスが変化するほか、母親の体調や栄養状態によっても変化します。
粉ミルクを与える場合は一定の栄養バランスが維持されることになります。
粉ミルクによる育児と比較した場合の母乳育児のメリットやデメリット
母乳育児と粉ミルクによる育児とでは、以上でふれた栄養や免疫力以外にどのようなものがあるでしょうか。
私の経験を踏まえた上で、よく言われていることをまとめてみました。
母乳育児のメリットは母親と赤ちゃんの絆を手軽に深められること
私が感じた一番のメリットは、母親と赤ちゃんの絆を手軽に深めることができるところにあります。
オキシトシンで母親もリラックス。
また、消化吸収が良いため、下痢や便秘のリスクが低く、乳児期の消化器官の発達を促進すると言われています。
母乳はいつでも手軽に与えることができ、哺乳瓶の消毒などの手間が不要ですし、無料で入手できるため、経済的な負担が少なく、環境にも優しいと言えます。
ただし、使い捨てのパッド、母乳外来への通院などを含めて考えると、同じくらいの負担になる場合があります。
母乳育児のデメリットは母親を拘束するところ
母親自身が健康状態やストレスなどの影響を受け、栄養素のバランスが崩れたり、母乳が出なくなったりする場合があります。
母親が赤ちゃんの世話をする時間や場所に縛られ、自由度が低くなることがあります。
特に、他人に赤ちゃんを預ける場合、母乳だけで育てられている赤ちゃんは粉ミルクを拒否することがあります。
粉ミルクによる育児のメリット・デメリット
粉ミルクによる育児のメリット・デメリットは、母乳育児のメリット・デメリットの裏返しとなります。
粉ミルクは栄養価が一定であるため、母親の健康状態や栄養状態に依存しません。
母親が健康状態に不安がある場合や、母乳が出にくい場合でも赤ちゃんに栄養を与えることができます。
哺乳瓶での授乳が可能なため、他人に赤ちゃんを預けて母親が自由に行動できることがあります。
早めの社会復帰にミルクは必須。
母乳・ミルク・混合はどっちがいいのか
よく議論されるのが、母乳・ミルク・混合それぞれの育児のメリットとデメリットです。
粉ミルクは働く女性の味方
母乳育児では、赤ちゃんが母親の手を離れることができません。
混合育児はとっても手間がかかります。
よって、女性の社会進出を助けるうえで最良なのはミルク育児だと思われます。
母乳は赤ちゃんの健康や成長の味方
地球温暖化やグローバル化が進み、新しい病気がはやると、母乳による免疫が赤ちゃんの生き残りに有利にはたらくかもしれません。
新型コロナ抗体も母乳中に確認されました。
ちなみに、母乳育児は15歳くらいまでのIQにも有利にはたらくようですが大人になると差異はなくなります。
混合育児は最初に手間がかかるけどいいとこ取りできる
私は母乳の出が悪かったので、混合にせざるを得ませんでしたが、もしかすると混合が最強かもしれません。
寝かしつけのときは母乳でそのまま母子共に寝て、誰かに預けるときはミルク、などと自由に組み合わせを決めることができます。
いったん手間がかかりますが後々楽です。
授乳能力、繁忙状況、社会情勢、母親の気持ちで母乳・ミルク・混合を決める
母乳の量や母親の忙しさ、暮らしている社会の状況に応じて母乳、ミルク、混合のどれにするのか柔軟に判断していく必要があります。
そして、あまり議論されないので気になることとしては、母親自身の気持ちが1番大事だということです。
記事の最後でそのことに触れます。
母乳はいつからいつまで出るのか
母乳は、出産後から何もせずともずっと出続ける、というわけではありません。
通常、母乳は産後すぐに出始め、授乳を続けることで増えていく傾向にあります。
母親が授乳を中止すると、母乳の分泌量は徐々に減少し、止まります。
母乳量は、母親の体調や授乳の頻度、授乳方法、赤ちゃんの成長などによる
母乳量は、母親の体調や授乳の頻度、授乳方法、赤ちゃんの成長などによって異なるため、個人差があります。
授乳を続けることで、母乳の分泌量は調節され、赤ちゃんが必要とする量だけ分泌されます。
母乳は出産後1年間ほど授乳することが推奨されている
赤ちゃんは、最初の半年は母乳やミルクだけを飲み、その後少なくとも1年間は引き続き離乳食に加えて母乳やミルクを与えることが推奨されています。
日本において一般的には、赤ちゃんが生後5ヶ月ごろから離乳食がはじまります。
食事の増加に合わせて授乳回数が減少すると、次第に母乳の分泌量も減っていく傾向があります。
ただし、赤ちゃんへの授乳を続けることで、母乳の分泌は続きます。
育児日記と母乳外来で測定した母乳量・授乳量・赤ちゃんの体重
私は搾乳せずに母乳育児をおこなえるようになるまで、2ヶ月を要しました。
いくら万全な環境が与えられていたとしても、2ヶ月という期間は長く、母乳育児に挑戦する場合はこれがぎりぎりの期間だったのではないかと思います。
2ヶ月かかって半ミにこぎつけた私の場合の母乳量などの数値をまとめてみました。
直母量・哺乳瓶での授乳量・体重の増加量の各測定値
母乳外来では、直母前後の赤ちゃんの体重を測定して1回あたりの直母量を把握しました。
直母前の体重から、赤ちゃんの1日あたりの体重増加を計算。
哺乳瓶での授乳量の1日あたりの平均も計算してみました。
こうして得られた数字は以下の通りです。
母乳外来で測定した直母量(ml/回) | 哺乳瓶での平均授乳量(ml/日) | 1日あたりの体重増加量(g/日) |
生後2週間後 0 | 14日目 500 | 6日目〜14日目 55 |
生後4週間後 15 | 2〜4週間目 644 | 2〜4週間目 43 |
生後6週間後 10 | 5〜6週間目 627 | 5〜6週間目 44 |
生後8週間後 50 | 7〜8週間目 521 | 7〜8週間目 30 |
生後11週間後 70 | 9〜11週間目 218 | 9〜11週間目 26 |
※直母量は赤ちゃんの体重で測定しているので単位はgですが、mlと読み替えています。
搾乳を減らして直母を増やしていく中で母乳量は飛躍的に増加
生後27日から直母トレーニングを開始しました。
トレーニング開始とともに、生後4週間からは直母の量が徐々にアップしていきました。
生後8週間になるまでに徐々に搾乳をやめ、生後2ヶ月になったら直母とミルクだけで毎回授乳するようにシフトしました。
直母にシフトしたあとは、赤ちゃんの飲む技術やおっぱいの出が飛躍的に良くなっていったのがわかります。
途中で諦めなくてよかった。
赤ちゃんの1日あたりの体重増加量は搾乳をやめていく中で大きく減少
直母トレーニングを開始してからは、哺乳瓶での授乳量が減少しました。
直母の回数が増えたことで母乳が増えたことが一番の原因だと思われますが、直母をした赤ちゃんは少しくたびれて哺乳瓶から飲むミルクの量が減っていたかもしれません。
1日あたりの体重増加量も7〜8週間、9〜11週間で14gずつ減少しています。
期間 | 体重の1日あたりの増加量の目安 |
1〜3か月 | 30〜25(g/日) |
3〜6か月 | 25〜20(g/日) |
6〜9か月 | 20〜10(g/日) |
9〜12か月 | 10〜7(g/日) |
心配になって、通常の乳児の1日あたりの体重増加量の目安と比べてみましたが、大まかには正常の範囲内でした。
母乳外来の助産師からも太鼓判をもらいました。
直母での授乳量を推測
直母の量は、1回あたりの直母量に1日の直母の回数をかけることで計算できます。1日あたりのミルクの量を足し合わせれば1日の授乳量がわかります。
・7〜8週間目で1日平均3.3回で165ml/日
(ミルク等と合わせて686ml/日)
・9〜11週間目で1日平均6回で420ml/日
(ミルク等と合わせて638ml/日)
となりました。
ミルクと合わせた量が若干減っているようなので、直母量や体重の増加はあるものの、ミルクを少し増やしていく必要がありそうです。
おわりに
私の子供は生後1ヶ月まで直母ができませんでした。
しかし、家族のサポート、インターネットや書籍の知識、母乳外来の助産師の助言、友人の助言などに支えられて、搾乳や直母練習を頑張った結果、半分以上は直母でまかなえるようになりました。
ここまでこられたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
直母をやってみたいなら諦めないで
私が出産した産院の医師や助産師といった専門家、私の周囲の直母が当たり前にできた女性たちや直母に関心のない人たちの間に、直母は無理してまで行うものではないという認識が蔓延していました。
何を信じてよいのかわからず、私は当初かなり悩みました。
でも、直母がしばらくできない状態と直母ができた状態とを両方経験した私に言わせれば、自分の赤ちゃんが直母で母乳を飲むという素晴らしい経験は、ほかに代え難いものだと感じました。
直母に挑戦する価値は十分にあります。
直母をやってみたいと思っているお母さんを応援しよう
直母をやってみたいという気持ちは、体内のホルモン量の変化など、生理的な影響に基づくものであり、自分で制御するべきものではありません。
母乳を飲ませようとする強い本能がなかったら、人類は存続してこなかったはずです。
その気持ちを抑えろと言うのは食欲や性欲などを我慢しなさいと言われるのと同じです。
直母をやってみたいという女性の気持ちは尊重され、応援されるべきものだと感じました。
直母を目指した経緯を記した他の記事
私の場合、直母に向けたチャレンジを続けた結果、2ヶ月で搾乳なしの「半ミ」にまでこぎつけました。
赤ちゃんが直母をできるようになると、飛躍的に母乳量が増え、8ヶ月目、会社に復帰するころには1回あたり130mlほど搾乳で得られるようになりました。
出産から2ヶ月間の授乳にまつわることをまとめた記事をご紹介します。
コメント