昔話は読み聞かせに向いている
子供が1歳4ヶ月の頃から本格的に絵本の読み聞かせをスタートし、1日10冊ていどをこなしています。
子供の成長は早いもので、1年も経つと、ストーリー性のある絵本を集中して聴けるようになり、満を持して日本の昔話にトライすることにしました。
しかし、昔話絵本は一つの題目でもたくさんの出版社から作品が出ているので、えらぶのに苦労しました。
今回は、読み聞かせ中に出会った小澤俊夫さんの昔話絵本や関連書籍、昔話の特徴などをご紹介します。
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小澤俊夫さん監修「子どもと読む日本のむかしばなし」
我が家では、さまざまな出版社の昔話絵本を取りよせて読み聞かせていますが、中でも0歳〜3歳の子供によいと感じたのは小澤さん監修の作品でした。
全部で30冊出版されています。
子どもとよむ日本の昔ばなし 全12巻 第1期(Amazon)
1 かさじぞう 2 かにかにではれ 3 さるかにかっせん 4 こぶとりじい 5 はなさかじい 6 ねずみのすもう |
7 へっこきよめさん 8 いっすんぼうし 9 おむすびまてまて 10 えんまさまのしっぱい 11 したきりすずめ 12 さんまいのおふだ |
子どもと読む日本の昔ばなし 全12巻 第2期(Amazon)
13 ももたろう 14 しりなりべら 15 うりひめこ 16 ぶんぶくちゃがま 17 たにしむすこ 18 ねずみのむこさがし |
19 ぴぴんぴよどり 20 わらしべ三本 21 がまとうさぎのもちあらそい 22 おやゆびたろう 23 はなたかおうぎ 24 うらしまたろう |
子どもと読む日本のむかしばなし(全6巻) 第3期(Amazon)
25 かにじょうまんの星 26 かっぱのいちもんせん 27 天女のはごろも |
28 かめとからすとはちのおんがえし 29 やまなしとり 30 へびの子しどこ |
有名な昔話絵本は3歳までの読み聞かせには向かない
認知能力をそだてるためには、「くりかえし」が重要です。
何度もくりかえし読み聞かせることに耐える、適度な長さや難しさ、味わい深い面白さのある絵本は重宝します。
しかし、各種のリストで推薦されている昔話の絵本は、3歳までの幼児への読み聞かせを前提としているものではありません。
ボリュームがあって、少し古い言葉がつかわれています。
2歳の我が子には、昔話の面白さがうまく伝わっていない印象がありました。
小澤さんの昔話絵本はシンプルで楽しい
一方、小澤さん監修の昔話絵本は、かんたんな現代語を使ってシンプルに再話されています。
古い表現といえば、「じさ」「ばさ」といった主人公の呼び方や、昔話特有の「結末句」という結びの言葉に残されているだけです。
それらは読み聞かせのさまたげになりません。
一般的な昔話絵本は話が追加・省略されている
「昔話」を「絵本」に仕上げるにあたっては、各地域で伝承されている物語をそのまま使うことはできません。
絵本を読んだ人がわかりやすいように、方言やなまりをなおしたり、省略されていることを補足したり、バランスを考えて一部を省略したりする必要があります。
例えば、鬼退治や敵討ちを正当化するために、主人公たちが被った仕打ちの細かい描写が追加されることがあります。
また、昔話には、同じような場面・動作を3回くりかえす物語がたくさんありますが、これを省略している絵本が散見されます。
小澤さんの昔話絵本は余計な追加や省略がなく安心
小澤さん監修の絵本は、昔話の本質を変えずに再話することを徹底されています。
ストーリーに余計な追加や省略がなく、安心して読み聞かせできる内容となっていました。
「子どもと読む日本のむかしばなし」おすすめ7選
小澤さんの昔話絵本は、いずれもシンプルで味わい深く、楽しい作品です。
有名なお話がたくさん収録されていますが、なかでも特に印象深いおすすめの絵本をご紹介します。
1位 へっこきよめさん
美人で働き者のお嫁さんは、お婆さんが裏の畑まですっ飛ぶほどのオナラをしてしまい、里帰りさせられることに。
子供にとっては、ぶーっと迫力ある音で鳴るオナラをテーマにした昔話はとても楽しいようです。
昔話を読み聞かせ始めるにあたっては、もってこいの作品です。
2位 こぶとりじい
踊りの好きなお爺さんは、魔物の宴会に怖がりもせず飛び込んで楽しく踊り、魔物に認められます。
左のコブを預かるから明日また来いと言われます。
お爺さんが踊る時の歌を子供が覚え、絵本を読んでいない時でも唱えながら踊っています。
いちにべっちょう、ににべっちょう!
3位 へびの子しどこ
お爺さん、お婆さんが拾って育てていた蛇が大きく成長してしまい、近所の人たちから怖がられ、追い出さざるを得なくなります。
白い蛇は神様の使いだったのでしょうか。
蛇とお別れの時は我が子もしょんぼりします。
4位 やまなしとり
病気のお婆さんにやまなしを食べさせるため、山へ取りに行った兄弟が次々に化け物に飲み込まれます。
兄弟3人ともに、戻れと言われても戻らない強情っぷりが本書の特徴。
切り絵による美しい挿絵が目を引きます。途中まで、化物の全容が分からず、ドキドキします。
5位 しりなりべら
神様に不思議なへらをもらい、うまく使いこなして長者の娘の婿になる青年のお話。
へらによって鳴ってしまったお尻の音が素敵です。
ひょーろんこ、ひょーろんこ!
6位 かにじょうまんの星
貧乏に甘んじることなく、お金が貯まる方法を探しに旅に出た老夫婦は、神様に出会います。
後半に出てくるかにじょうまんは、成長して好青年に。
沖縄のお話です。
7位 えんまさまのしっぱい
同時に亡くなった仲良しの悪者3人が、個々の得意分野を生かしてえんまさまを出し抜き、地獄を脱出するサクセスストーリー。
昔話の特徴を知った上で読み聞かせよう!
昔話の特徴を知ることで、大人達も昔話をより一層楽しむことができると思います。
少しだけ、昔話の特徴を解説します。
昔話はハズレがなくて面白い
昔話は、日本各地に伝わっています。
それぞれの家の囲炉裏端や布団の中で、大人が子供たちに代々話して聞かせてきました。
話し手が面白いと感じて何度も話した物語や、聞き手である子供たちが何度もリクエストして聞いたお話が、記憶にしっかりと残り、後世に伝わっていきます。
こうして代々語り継がれてきた昔話は、基本的にハズレが無く面白いお話であることが特徴です。
昔話は読み聞かせに最適な物語
昔話は、語り手によって、長々とした細かい描写がそぎ落とされ、物語に必要不可欠な要素が加えられてきました。
分かりやすい話の順序や表現が追求されてきたため、耳で聞くだけでも物語が簡単に思い描けるのも大きな特徴です。
まさに、読み聞かせに最適な物語と言えます。
昔話を現代に蘇らせる「再話」
各地域で昔の言葉・方言・なまりを含んだ昔話が口頭伝承されてきたものを、絵本に書き起こす場合には、「再話」を行うことになります。
再話とは、
昔話・伝説などを、言い伝えられたままではなく、現代的な表現の話に作り上げること。また、その話。(広辞苑より)
各地域・各家庭で昔話の内容は異なります。
再話者は、その一つを選んだり、いくつかをくっつけたりしながら再話するので、同じタイトルであっても、絵本によってストーリーが違うことがよくあります。
伝承内容のどこをそのまま残すのか、どこを省いたり説明を加えたりするのか、再話者の腕が試されます。
日本昔話のパターンについて
日本の昔話には、いくつものパターン化されたお話がたくさんあります。
・知恵や度胸により身の安全や幸せを得る
(桃太郎・三枚のお札・へっこき嫁さんなど)
・動物、困窮者、死者などへの親切により身の安全や幸せを得る
(笠地蔵・わらしべ長者・鼠の相撲など)
・動物、精霊、天狗などから特権を得たのにさいごは元にもどる・不幸になる
(浦島太郎・鶴の恩返し・鼻高扇など)
・人まねをして不幸になる
(花咲爺さん・こぶ爺さん・舌切雀など)
・知恵を絞って敵討ち
(猿蟹合戦・かちかち山など)
また、日本の多様な価値観を反映したお話もたくさん残されています。
日本の昔話は、主に高齢者によって話されてきたため、主人公にお爺さん・お婆さんがたくさん登場します。
日本と世界の昔話には共通点がたくさん
では、世界の昔話は日本の昔話とどのような共通点があるのでしょうか。
小澤俊夫さんの著書「こんにちは、昔話です」について
小澤俊夫さんは筑波大学名誉教授で世界中の昔話研究の第一人者です。
昔話を読み聞かせるにあたって、大人たちが参考にできる著書を、たくさん執筆されています。
こんにちは、昔話です (小澤俊夫の昔話講座)(Amazon)
この本は、初心者向けです。久しぶりに面白いものを読んだな、という満足感でいっぱいになる本でした。
前半の「講演録」の部分が特におすすめです。
日本と世界の昔話の共通点(発端句と結末句、3回の繰り返し)
小澤さんによると、世界中の昔話には共通の特徴があるのだそうです。
昔話というのは、耳で聞かれてきた文芸ですから、特徴は、簡単で明瞭、ということです。
複雑で詳細な昔話の書籍が散見されますが、本来の口頭伝承の昔話とは別物なんですね。
「昔むかし、あるところに」って始めて、最後に「どっぺんぱらりのぷっ」なんていって終わるわけです。つまり、うその話を発端句と結末句で囲むわけです。
おとぎ話を始めたり終わらせたりするには、お決まり文句が欠かせませんよね。
昔話は主人公やその敵対者を孤立的に語るといいます。(略)子どもがお話を聞いて、頭の中で(略)姿が描けるためには、(略)ひとりじゃなきゃだめです。(略)つまり、子どもがちゃんと想像できるように語ってやる細かい工夫があるんです。
確かに、群集劇を耳で聞いて、頭の中で再現するのは難しい。
一対一のやりとりが中心になるのはうなずけます。
昔話は三回のくり返しをほとんど同じ言葉で語るといいます。(略)白雪姫は三回殺されています。(略)シンデレラがガラスの靴を置いてきたのは三回目の舞踏会の帰りだったということはご存知ですか?
シンデレラに関して、小澤さんの持論が展開されますが、とても興味深い内容でした。
日本の昔話の問題点(再話される話の偏り・女性が主人公の話がない)
(日本の)昔話は、教訓的とか、勧善懲悪と思われがちです。でも本当は、そういう話はごく一部であって、もっと広い、さまざまな価値観をもった昔話がたくさんあります。
小澤さんによると、日本につたわる昔話は全部で900〜1000種類あるそうです。
このうち、花咲かじいさんのような人まねを戒める話は、小澤さんのカウントによれば13種類のみとのこと。
でも、絵本になっている昔話では、人まねを戒める話が多い印象。
人まねの話が多いのは、明治時代に教訓的な話としてさかんに取り上げられたことが原因です。
本来、昔話はさまざまな種類があり、女性が活躍する話もたくさんありました。
昔話の多様性をとりもどす活動がのぞまれます。
子供に昔話絵本を読み聞かせるメリットはたくさんある
私が子供に昔話を読み聞かせてみて感じたメリットは、たくさんありました。
昔話は、基本的にシンプルで面白く、子供と一緒にダイナミックなストーリー展開を楽しむことができます。
また、昔話は、人生を俯瞰して見る機会を与えてくれます。
昔話を読み聞かせながら、社会システムについて説明するきっかけが生まれます。
昔話を読み聞かせて「お金・大判小判って何?」の理解を導く
お金の電子化によって、売買の仕組みが見えづらくなった昨今。
昔話に出てくるお金のやり取りや、登場人物が大判小判を手に入れて喜ぶシーンは、お金についての説明のきっかけを与えてくれます。
昔話を読み聞かせて「結婚って何?」の理解を導く
昔話では、最後に主人公が結婚することが多々あります。
結婚指輪をもらうことが結婚だと認識していた子供に、結婚について説明するきっかけになりました。
昔話を読み聞かせて「死って何?」の理解を導く
昔話では、家族や動物が殺されたり、亡くなったりします。
身近な死を学ぶきっかけになります。
また、生き物は命を頂いて生きていることを知る機会にもなります。
さいごに
小澤さんも著書の中で仰っていますが、昔話はリアルに語られないので、食べらたり、殺されたりする内容であっても、避けるべき恐ろしい物語とはなりません。
昔話は、長い歴史を見ても、害のない存在であることが立証されている物語です。
子供にたくさん昔話を読み聞かせてあげたいですね。
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