環境法令の知識は不動産の所有者や使用者にとって必須
環境法令は、違反してしまうと企業の責任だけでなく、企業の中で該当する部分の管理を担当している個人も法令違反を問われて、罰金も課せられてしまいます。
また、環境法令への違反に伴って、賠償金を負担したり、事業をとめて対応策を講じたり、社会的信用が失墜したりするなど、さまざまなコストがかかります。
環境法令の全体像を理解することで、ヌケモレなく、企業の持続的な活動へのリスクに対応することができると思います。
今回は、環境法令、環境条例の基本と概要について説明します。
環境法令に関して参考とした書籍
環境法令の本はたくさん出版されていますが、ひとまとまりの情報を提供してくれるものは少ないと感じます。
このブログでは、以下の著書の流れに沿って説明していきます。
全体像がわかるのでおすすめです。
環境法令とは
環境法は、環境を保護・維持・改善することを目的とする法律の総称です。
環境法には明確な定義はありません。
まずは、環境法令の概要やおおまかな内容について説明します。
日本における環境法のはじまり
✔ 日本の環境法のはじまり
・ 1950年代以降 公害問題が深刻化
・ 1967年 公害対策基本法制定
・ 1971年 環境庁設置による公害対策集約
・ 1993年 環境基本法公布・施行
現在、日本のほとんどの環境法は、環境基本法の基本理念のもと、制定・改正がなされています。
環境基本法第1条にさだめる基本理念と環境保全施策の目的
(目的)
第1条 この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。
出典:環境基本法1条
環境基本法は、日本の環境政策の根幹を定める基本法です。
その大半は施策の方向性を示すいわゆるプログラム規定で構成されていますが、後述する環境基準の設定や環境基本計画の策定など、具体的な施策に関する実体規定も含まれています。
※ プログラム規定とは、法律の目的や基本理念、政策の方向性を示す規定で、直接的な法的拘束力を持たず、政策立案や法解釈の指針となる役割を果たします。
例:環境基本法における基本理念(第3条〜第5条)や、環境基本計画(第15条)に関する規定など。
※ 実体規定とは、具体的な権利義務関係や手続きを定める規定です。これらは直接的な法的拘束力を持ち、具体的な行動や措置を要求します。
例:環境基本法における国や地方公共団体の責務(第6条、第7条)、事業者の責務(第8条)、国民の責務(第9条)などの規定。
環境基本法における環境への負荷、地球環境保全、公害の定義
環境基本法では、環境への負荷、地球環境保全、公害について定義をさだめています。
(定義)
第2条 この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
出典:環境基本法2条1項
環境への負荷には、敷地への負荷、隣地・地区・地域への負荷、地球全体への負荷といった、様々なレベルの負荷が含まれ、それぞれ取り組みがなされています。
2 この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。
出典:環境基本法2条2項
特に、地球全体についての環境保全については、気候変動をふくめて多くの取り組みがなされています。
3 この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。第二十一条第一項第一号において同じ。)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう。
出典:環境基本法2条3項
また、1950年代以降に公害問題が深刻化したことが、日本における環境法の整備のきっかけとなっており、公害防止というかたちで、環境法の整備がなされてきています。
環境法令とは(法律・政令・規則・省令・告示)
日本には憲法があり、国民の権利・自由を守るために、国がやってはいけないことや、やるべきことがさだめられた最高法規となっています。
国会の議決を経て制定される法律は、憲法の次に強い効力があります。
法律の委任を受けた法規は命令といい、内閣の定める政令や、各省大臣の定める省令、委員長または省の長が定める規則などがあげられます。
法律と命令とをあわせて法令とよびます。
ちなみに、委任とは、法律文のなかに「政令で定める」「法務省令で定める」などとしるして、法律の外で制定できるようにすることをいいます。
その他、法令に基づいて公にされる文書である告示も施行規則などと同じような効力があり、法的拘束力を有しています。
たとえば、水質汚濁防止法にかかわる法令・告示には以下のものがあります。
✔ 水質汚濁防止法の法令と内容
・ 水質汚濁防止法:枠組みと規制の根拠
・ 水質汚濁防止法施行令:規制対象施設と物質
・ 水質汚濁防止法施行規則:手続きや様式
・ 排水基準を定める省令:基準値と測定方法
・ 排水基準を定める省令の規定に基づく
環境大臣が定める排水基準に係る
検定方法(告示):分析方法や測定手順
法案の提出、成立、法律施行のながれ
一般的な法律ができるまでのながれは以下のようになります。
✔ 法律ができるまでのながれ
1. 法案の閣議決定と国会への提出
2. 国会での審議(衆議院、参議院)
3. 国会での可決・成立(会期末の6月まで)
4. 法律の公布(官報で成立から数日後に)
5. 関連する政省令の制定・公布
6. 法律の施行(翌年4月ごろ)
環境にまつわる問題は、環境省や経産省など中央省庁に設置されている審議会で審議され、法律の制定や法改正が必要だという答申が出されると、省庁で法案が作成され、国会に提出されます。
ほとんどの法案は、通常国会(1月〜6月)の会期末までに可決・成立します。
そして、政省令や告示などの細かいルールをさだめて、翌年の4月ごろに法律が施行されます。
法案がいつできて、いつから効力をもつのか確認しましょう。
国内の環境法と国際動向との関係
日本の環境法は、常に国際動向の影響をうけています。
国際動向と、その前後の国内法の制定や改定についてまとめると、以下のとおりとなります。
マルポール条約(1954年の条約を引継ぎ1973年採択)
マルポール議定書(1978年採択、1983年発効)
⇒海洋汚染等防止法(1970年制定)
※船舶等の油・有害液体・廃棄物の排出・廃棄を規制
モントリオール議定書(1987年採択、1989年発効)
⇒オゾン層保護法(1988年制定)
※フロン類製造業者の取組を規定
⇒フロン回収・破壊法(2001年制定)
※廃棄時の回収・破壊の取組を規定
バーゼル条約(1989年採択、1992年発効)
⇒バーゼル法(1992年制定)
※鉛蓄電池や石炭灰・廃蛍光灯などの処理を規制
⇒廃棄物処理法(1970年制定、1991年改正)
※石炭灰・廃蛍光灯や紙くずなどの処理を規定
ストックホルム条約(2001年採択、2004年発効)
⇒PCB特別措置法(2001年制定、2016年改正)
※PCB廃棄物の保管や処分を規定
⇒化審法(1973年制定、2003年改正)
※PCB類似の化学物質による汚染防止
国際再生可能エネルギー機関設立(2009年)
IRENA憲章(2009年採択、2010年発効)
⇒再生可能エネルギー特別措置法(2011年制定)
※再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取
生物多様性条約(1992年採択、1993年発効)
名古屋議定書(2010年採択、2014年発効)
⇒生物多様性基本法(2008年制定)
※多様性保全・資源利用・問題解決への予防的取組
⇒ABS指針(2017年施行)
※遺伝資源を円滑に取得し研究開発を推進
水俣条約(2013年採択、2017年発効)
⇒水銀汚染防止法(2015年制定)
※掘採・一部使用禁止、貯蔵・再生資源管理規定
SDGs(2015年採択、2016年発効)
⇒環境基本法(2018年改正)
※改正により地域循環共生圏の考え方を導入
パリ協定(2015年採択、2016年発効)
⇒気候変動適応法(2018年制定)
※高温耐性のある品種の開発普及、熱中症対策など
⇒フロン排出抑制法(回収・破壊法から2019年改正)
※ライフサイクル全般の包括的管理と排出抑制強化
⇒東京都環境確保条例(2020年改正)
※野心的削減目標設定、再生可能エネ導入促進など
⇒地球温暖化対策推進法(2021年改正、2022年改正)
※2050年脱炭素、2030年に2013年度比50%など
G20大阪ブルー・オーシャン・ビジョン(2019年)
プラスチック条約(2022年取りまとめ交渉開始)
⇒プラスチック資源循環促進法(2021年制定)
※プラスチックの3R・再生可能資源への代替促進
これらの事例は、国際動向が日本の国内法の制定や改正に大きな影響を与えていることを示しています。
国際動向は常にチェックしておく必要があります。
環境法を読む手順とポイント
出典:環境省 騒音規制法の事務の体系(一部加工)
環境法を効果的に読み取り、理解するための手順とポイントは以下のとおりです。
✔ 環境法を読む手順
・ 法律の冒頭にある目的と定義を確認
・ 規制対象を特定し自社の該当有無を判断
・ 義務内容の把握
・ 法律の末尾にある罰則を確認
多くの環境法では、「指定地域内で特定施設を設置している場合」といったぐあいに、地域、設備、規模、物質などで、規制対象をあらわしています。
自社に規制対象の設備機器などがある場合は、どのような義務が生じるのか確認していきます。
義務違反行為と対応する命令、罰金、懲役などの罰則
つぎに、罰則についてみていきましょう。
以下のように、法文中の「努めなければならない」などの表現は、努力義務規定であり、罰則はありません。
(事業活動に伴う排出削減等)
第23条 事業者は、事業の用に供する設備について、温室効果ガスの排出の量の削減等のための技術の進歩その他の事業活動を取り巻く状況の変化に応じ、温室効果ガスの排出の量の削減等に資するものを選択するとともに、できる限り温室効果ガスの排出の量を少なくする方法で使用するよう努めなければならない。
出典:温暖化対策推進法23条
一方、以下のように、法文中の「~しなければならない」「~するものとする」などの表現がある場合は義務規定です。
(温室効果ガス算定排出量の報告)
第26条 事業活動(略)に伴い相当程度多い温室効果ガスの排出をする者として政令で定めるもの(略)は、毎年度、主務省令で定めるところにより、主務省令で定める期間に排出した温室効果ガス算定排出量に関し、主務省令で定める事項(略)を当該特定排出者に係る事業を所管する大臣(略)に報告しなければならない。
出典:温暖化対策推進法26条1項
これらの表現に注目すると具体的な義務内容を特定することができます。
義務規定がある場合は発生条件、期限、頻度などを確認します。
環境法の法律の末尾には、罰則の章が設けられていることがあり、違反行為と対応する命令、罰金、懲役などの罰則をそこで把握することができます。
第11章 罰則
第75条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の過料に処する。
一 第二十六条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
二 第四十七条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
三 第五十六条第二項の規定による命令に違反した者
出典:温暖化対策推進法75条
罰則の章を見ると、特定排出者は毎年度CO2排出量を大臣に報告しなかった場合や虚偽報告をした場合に、20万円以下の過料を課せられることがわかります。
ちなみに、違反した場合にただちに罰則が課されることを直罰といいます。
一方、下に記載の56条の改善勧告や改善命令などを経て、その命令などに違反した場合に、上に記載の75条1項三号のような罰則が課されることを間接罰といいます。
(勧告及び命令)
第56条 環境大臣及び経済産業大臣は、正当な理由がなくて第四十九条第二項に規定する国の管理口座への移転を行わない口座名義人があるときは、当該口座名義人に対し、期限を定めて、その移転を行うべき旨の勧告をすることができる。
2 環境大臣及び経済産業大臣は、前項に規定する勧告を受けた口座名義人が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該口座名義人に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
出典:温暖化対策推進法56条
命令や勧告をうけるだけでも、社会的信用が失墜するおそれがあるため注意が必要です。
環境法令の全体像
環境法には明確な定義がないものの、環境法としての側面をもっているたくさんの法律が、日本の企業によって、環境法として位置付けられています。
地球環境、公害、廃棄物と3R、化学物質、生物多様性に関して、2024年8月現在にさだめられている法律を例示します。
地球環境に関する法律
✔ 地球環境に関する法律
・ 省エネ法(1979年制定)
・ 建築物省エネ法(2015年制定)
・ 温暖化対策推進法(1998年制定)
・ フロン排出抑制法(2013年大改正)
・ オゾン層保護法(1988年制定)
・ 再エネ特措法(2016年大改正)
・ 気候変動適応法(2018年制定)
地球環境に関する法律には、CO2やフロン関連の法律が含まれます。
特に、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、CO2関連の法律が最近よく改正される傾向にあります。
公害に関する法律
✔ 公害に関する法律
・ 公害対策基本法(環境基本法施行に伴い廃止)
・ 公健法(1973年制定)
・ 公害防止組織法(1971年制定)
・ 大気汚染防止法(1968年制定)
・ 自動車NOx・PM法(1992年制定)
・ 水質汚濁防止法(1970年制定)
・ 浄化槽法(1983年制定)
・ 下水道法(1958年制定)
・ 土壌汚染対策法(2002年制定)
・ 騒音規制法(1968年制定)
・ 振動規制法(1976年制定)
・ 悪臭防止法(1971年制定)
・ 工業用水法(1956年制定)
・ ビル用水法(1962年制定)
公害に関する法律は、公害が深刻化した1950年代から順次制定されています。
廃棄物と3Rに関する法律
✔ 廃棄物と3Rに関する法律
・ 循環型社会形成推進基本法(2000年制定)
・ 廃棄物処理法(1970年制定)
・ バーゼル法(1992年制定)
・ PCB廃棄物特措法(2001年制定)
・ 資源有効利用促進法(2000年大改正)
・ 容器包装リサイクル法(1995年制定)
・ 家電リサイクル法(1998年制定)
・ 建設資材リサイクル法(2000年制定)
・ 食品リサイクル法(2000年制定)
・ 自動車リサイクル法(2002年制定)
・ 小型家電リサイクル法(2012年制定)
・ グリーン購入法(2000年制定)
・ プラスチック資源循環促進法(2021年制定)
資源有効利用促進法は、3Rを推進する基本的な法律です。
ちなみに、3Rとは、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の頭文字をとったもので、循環型社会の構築に関するキーワードとなっています。
化学物質に関する法律
✔ 化学物質に関する法律
・ 化審法(1973年制定)
・ 化管法(1999年制定)
・ 毒劇法(1950年制定)
・ ダイオキシン特措法(1999年制定)
・ 水銀汚染防止法(2015年制定)
・ 労働安全衛生法(1972年制定)
・ 消防法(1948年制定)
・ 農薬取締法(1948年制定)
消防法は、火災や災害の予防・警戒・鎮圧・傷病者の搬送などの対応を規定している法律ですが、危険物の取り扱いにおいては環境法としても位置付けられます。
生物多様性に関する法律
✔ 生物多様性に関する法律
・ 生物多様性基本法(2008年制定)
・ 自然環境保全法(1972年制定)
・ 自然公園法(1957年制定)
・ 環境影響評価法(1997年制定)
・ 鳥獣保護管理法(2002年大改正)
・ 種の保存法(1992年制定)
・ 外来生物法(2004年制定)
・ 工場立地法(1959年制定)
・ 森林・林業基本法(2001年大改正)
・ 遺伝子組換え生物等規制法(2003年制定)
・ 海洋基本法(2007年制定)
工場立地法は、緑地の確保によって間接的に生物多様性に寄与しています。
環境基準と規制基準の関係
日ごろニュースを賑わせている環境基準は国の目標値です。
第三節 環境基準
第16条 政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
出典:環境基本法16条1項
一方、規制基準はその目標を達成するための具体的な規制値とされています。
以下に、大気、水質、土壌、騒音についての例をあげて、環境基準と規制基準の関係について説明します。
大気汚染についての環境基準と規制基準
大気汚染についての環境基準の例は以下のとおりです。
例:二酸化窒素(NO2)
1時間値の1日平均値が0.04ppm~0.06ppmのゾーン内又はそれ以下
大気汚染についての環境基準は、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準がさだめられています。
一方、大気汚染防止法の規制基準の例は以下のとおりです。
例:窒素酸化物(NOx)
大規模なガス専焼ボイラーは60ppm(標準酸素濃度5%)
大気汚染についての規制基準は、工場・事業場からの排出ガスに対する排出基準がさだめられています。
国は、複数の排出源からの影響を考慮し、全体として環境基準を達成することを目指しているため、個々の排出源に対する規制基準よりもきびしい値となっています。
水質の汚濁についての環境基準と規制基準
水質汚濁についての環境基準の例は以下のとおりです。
例:AA類型※の河川のBOD
1mg/L以下
※水道1級、自然環境保全及びA以下の欄に掲げるもの
水道1級:ろ過等による簡易な浄水操作を行うもの
自然環境保全:自然探勝等の環境保全
BOD(生物化学的酸素要求量)は、河川、湖沼、海域ごとに数値がさだめられています。
一方、水質汚濁防止法の規制基準の例は以下のとおりです。
例:BODの一般的な排水基準
160mg/L(日間平均120mg/L)
工場・事業場からの排水基準がさだめられています。
水質の場合、河川等の自浄作用や希釈効果を考慮しているため、規制基準は環境基準よりもかなりゆるい数値が設定されています。
土壌の汚染についての環境基準と規制基準
土壌汚染についての環境基準の例は以下のとおりです。
例:鉛及びその化合物
0.01mg/L以下(溶出量)
環境基準は、汚染がもっぱら自然的原因によることが明らかな場所の土壌については、適用されません。
一方、土壌汚染対策法の規制基準の例は以下のとおりです。
例:鉛及びその化合物
0.01mg/L超(溶出量)
土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置を必要とする基準がさだめられています。
土壌汚染は長期的に影響を及ぼす可能性が高いため、環境基準と規制基準(措置を必要とする基準)がほぼ同じ値に設定されています。
騒音についての環境基準と規制基準
騒音についての環境基準の例は以下のとおりです。
例:地域B※の値
地域Bの昼間(6:00-22:00)55dB以下
地域Bの夜間(22:00-6:00)45dB以下
※主として住居の用に供される地域
数値は地域や時間帯によって異なります。
また、測定地点は必ずしも住居等の建物の周囲にある地点である必要はなく、例えば空き地であっても、当該地域の騒音を代表すると思われる地点であれば選定してよいとされています。
一方、騒音規制法の規制基準の例は以下のとおりです。
例:第2種区域※の値
第2種区域の昼間 (8:00-18:00)55dB
第2種区域の朝夕 (18:00-21:00・6:00-8:00)45dB
第2種区域の夜間 (21:00-6:00)40dB
※第2種区域:第一種中高層住居専用地域、第一種住居地域及び第二種住居地域
工場・事業場の敷地境界線上での規制基準がさだめられています。
騒音は生活の質に直結する値であり、発生源からの距離に応じて減衰するため、規制基準が環境基準よりきびしい値となる場合があります。
環境基準と規制基準のちがい
大気や水質については、規制基準が環境基準よりゆるい傾向にあり、騒音や土壌については、規制基準が環境基準と同じか、よりきびしい傾向にあります。
汚染物質の拡散、希釈、蓄積など、挙動の違いによるものです。
環境条例による規制
国による環境についての法規制とはべつに、独自の環境条例による規制を設けている自治体がたくさんあります。
まずは、一般的な条例についておさらいしましょう。
条例の憲法や法律上の根拠
地方自治体の条例制定権は、憲法レベルで保障されています。
(地方公共団体の権能)
第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
出典:日本国憲法第94条
また、地方自治法は、憲法第94条の規定をより具体化し、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて条例を制定できることをさだめています。
第14条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
3 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮こ、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。
出典:地方自治法14条
条例は、その自治体の区域内において法的拘束力を持ちます。
法令による規制への上乗せ・横出し・裾下げ
自治体は環境条例を制定し、法令による規制に上乗せ・横出し・裾下げすることによって、よりきびしい基準を設けています。
上乗せ・横出しとは
出典:茨城県霞ヶ浦での排水規制
上乗せとは、国の法令で定められている規制基準よりも厳しい基準を条例で定めることを指します。
横出しとは、国の法令では規制対象となっていない事項について、条例で新たに規制を設けることを指します。
裾下げとは
出典:茨城県霞ヶ浦での排水規制
裾下げとは、国の法令で定められている規制対象の範囲を拡大し、より小規模な事業所や施設にも規制を適用することを指します。
霞ヶ浦は水質を保つために複数の条例できびしく規制しているんですね。
自治体で制定される環境条例のパターン
都道府県や市区町村では、それぞれ、なんらかの環境条例をさだめています。
47都道府県ぜんぶで環境条例の制定が完了しています。
当初は公害防止条例のみ制定されていましたが、現在は複数の条例をそなえている自治体が主流です。
✔️ 環境条例の制定パターン
・ 総合的な環境条例を制定
・ 3つの個別条例に分けて制定
・ 基本条例と個別条例を制定
・ 公害防止条例を維持して改正
事例を挙げながら、そのパターンについて説明します。
総合的な環境条例の例:石川県
石川県は総合的な環境条例をさだめて、環境保全全般をカバーしています。
✔ 石川県の環境条例
・ ふるさと石川の環境を守り育てる条例
この条例は、県の施策の方向性、公害、廃棄物、化学物質、土砂埋立、温暖化などの規定にくわえて、自然環境の保全まで幅広い環境問題をカバーしています。
個別条例の例:神奈川県
神奈川県では、環境に関する条例を個別に制定しています。
✔️ 神奈川県の環境条例
・ 神奈川県生活環境の保全等に関する条例
・ 神奈川県地球温暖化対策推進条例
・ 神奈川県循環型社会づくり推進条例
これらの条例は、それぞれ特定の環境問題に焦点を当てており、より詳細な規制や施策を展開しています。
環境基本条例と個別条例の組み合わせ:大阪府
大阪府では、環境政策の基本的な方向性を定める条例と、個別条例とを設けています。
✔ 大阪府の環境条例
・ 大阪府環境基本条例
・ 大阪府生活環境の保全等に関する条例
・ 大阪府気候変動対策の推進に関する条例
・ 大阪府循環型社会形成推進条例
この方式では、環境政策の全体的な枠組みを示しつつ、個別の問題に対して詳細な規定を設けることができます。
✔ 横浜市の環境条例
・ 横浜市環境の保全及び創造に関する基本条例
・ 横浜市生活環境の保全等に関する条例
・ 横浜市地球温暖化対策の推進に関する条例
・ 横浜市廃棄物等の減量化、資源化及び適正処理等に関する条例
横浜市においても同様に、環境政策の基本的な方向性を定めている基本条例と、個別条例とを設けています。
公害防止条例を維持している例:秋田県
秋田県では従来の公害防止条例を維持し、基本条例や温暖化条例、廃棄物条例、自然環境保全条例などを別途さだめています。
✔ 秋田県の環境条例
・ 秋田県環境基本条例
・ 秋田県公害防止条例
・ 秋田県地球温暖化対策推進条例
・ 秋田市廃棄物の処理および清掃に関する条例
・ 秋田県自然環境保全条例
このように、生活環境保全条例をあたらしく制定せず、公害防止条例を維持して改正する自治体もみられます。
都道府県と市区町村の環境条例については、少なくともそれぞれの生活環境保全条例、温暖化対策条例、廃棄物対策条例をしらべなければ、全体を網羅することができません。
自社への規制の有無をもれなく確認しましょう。
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