権利の王様である所有権を理解しよう
不動産登記には、表題部と権利部にわかれ、権利部には所有権に関する情報が登記される甲区と、所有権以外に関する情報が登記される乙区とがあります。
今回は、甲区についてくわしく見ていきます。
不動産登記に関して参考とした書籍
不動産登記の本はたくさん出版されていますが、いずれも同じような内容となっていて、選ぶのに苦労された方もいらっしゃると思います。
このブログでは、以下の著書の流れに沿って説明していきます。
わかりやすく解説されていておすすめです。
※今回は、基本事項、保存、移転、信託の登記にフォーカスします。
権利部登記の基本事項
権利部では、権利に関する登記が記録され、権利部を読み解くことで、不動産の権利関係を把握することができます。
権利部には甲区と乙区があります。
甲区には、所有権の保存、移転、差押え等の処分の制限等の所有権に関する項目を記録し、乙区には、所有権以外の抵当権、賃借権などの権利を記録します。
不動産登記の権利部に登記される権利の変動
甲区や乙区への登記の対象となる権利変動はいくつかあります。
✔ 権利部の権利変動の登記とその原因の例
・ 保存(所有権・先取特権)
・ 設定(抵当権・地上権・賃借権・地役権・質権)
・ 移転(所有権・その他の権利)
・ 変更(抵当権の債務者の変更など)
・ 処分の制限(仮差押・仮処分・差押・破産)
・ 消滅(弁済)
権利部の様式(順位番号、登記の目的、受付年月日・受付番号、権利者その他の事項と欄の区切り方)
出典:登記情報提供サービス サービス概要 提供される登記情報 不動産登記情報(全部事項)抜粋・加工(以下同様)
土地や建物の不動産登記において、権利部の甲区・乙区の様式は、4つの欄があります。
(権利に関する登記の登記事項)
第59条 権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一 登記の目的
二 申請の受付の年月日及び受付番号
三 登記原因及びその日付
四 登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所並びに登記名義人が二人以上であるときは当該権利の登記名義人ごとの持分
八 第二号に掲げるもののほか、権利の順位を明らかにするために必要な事項として法務省令で定めるもの
出典:不動産登記法59条1〜4・8号(5〜7・9号は省略)
主登記が記録されるたびに、順位番号の欄は区切られ、付記登記は区切らずに主登記と同順位となるようにならべて記録されます。
紙の登記簿からコンピューターへ移記されたときは、順位番号欄が空白、登記の目的、受付年月日・受付番号欄は余白、権利者その他の事項欄には移記した年月日などが記録されます。
仮登記が記録されるときは、その下に余白の欄がつくられ、本登記されるスペースが確保されます。このときは、順位番号が仮登記とおなじ番号になるため、順位番号の欄は区切られません。
順位番号は変動する
順位番号は、登記の順番をあらわし、権利変動のときには「2番仮登記抹消」というふうに使われます。
複数の抵当権が同じ順位で設定されるときは、順位番号にかっこがきでひらがなを加え、1(あ)、1(い)、などと順位番号欄に記録されます。
相対的な順位は変動する
たとえば1番や2番の順位番号上位の抵当権が抹消されたときは、順位番号3番の抵当権が「第1順位の抵当権」とよばれます。
コンピューター移記の際は順位番号も変動する
コンピューターへ移記される時点で抹消されていた登記があったときは、順位番号が繰り上がります。
登記の目的、受付年月日・受付番号、権利者その他の事項の欄
出典:法務省 土地の全部事項証明書(不動産登記)の見本 抜粋・加工(以下同様)
登記の目的欄より右側に、登記内容が記録されます。
登記の目的欄
どのような権利について、どのような権利変動があったのか記録します。
受付年月日・受付番号
それぞれの登記所で登記申請を受け付けた順に、1番から番号が毎年振られていきます。
権利部では、登記の先後が重要となりますが、順位番号だけでは甲区と乙区の先後がわかりません。
そこで、受け付けた年月日とともに受付番号を記録します。
あとで詳しく説明します。
権利者その他の事項
権利者その他の事項の欄には、最初に原因を記録します。
原因となる売買などの事柄が起こった日に登記申請されるとは限らないため、事柄の起こった年月日を特定できるように「○年○月○日売買」と記録します。
原因以外の記録内容としては、たとえば所有者や抵当権者といった登記名義人が記録されるなど、登記される権利の種類によって変わります。
登記名義人の氏名・名称・住所の変更登記の義務化
令和3年に民法・不動産登記法等の改正が公布され、登記名義人の氏名・名称・住所の変更登記の申請が義務化されることになりました。
(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)
第76条の5 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。
出典:不動産登記法76条の5(施行は公布後5年以内を予定)
変更があった日から2年以内に登記名義人が正当な理由なく変更登記の申請をしないときは、5万円以内の過料が課されることになりました。
登記官が住基ネットなどで住所などの変更の情報をとって、職権で変更登記を行う仕組みもできました。
(職権による氏名等の変更の登記)
第76条の6 登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。
出典:不動産登記法76条の6(施行は公布後5年以内を予定)
自然人についてはDV対策のため登記名義人に確認をとって変更登記がされることになります。
権利変動の先後優劣は登記の順番で決まる
甲区や乙区における権利変動の登記は、登記された順番、つまり登記に記載されている登記官が受け付けた年月日である受付年月日と、受付番号とで優劣が決まります。
(権利の順位)
第4条 同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後による。
2 付記登記(略)の順位は主登記(略)の順位により、同一の主登記に係る付記登記の順位はその前後による。
出典:不動産登記法4条
(登記の前後)
第2条 登記の前後は、登記記録の同一の区(第四条第四項の甲区又は乙区をいう。以下同じ。)にした登記相互間については順位番号、別の区にした登記相互間については受付番号による。
出典:不動産登記規則2条(2項は省略)
たとえば、乙区で賃借権が設定されたとしても、甲区で先に差押の登記がされていたときは、競売にもとづく売却によって賃借権の登記が抹消され、賃借権者は不動産を明け渡さなければならなくなります。
ちなみに、登記官が登記申請を受付したとしても、内容を審査して却下事由があれば受理されず却下されます。
保存と移転の登記
所有権に関する登記には3種類があり、これに対して各種の変更や更正、抹消登記がなされます。
✔ 所有権に関する登記
・ 所有権保存登記
・ 所有権移転登記
・ 所有権移転仮登記
所有権保存登記と所有権移転登記について説明します。
所有権保存登記は登記申請できる人が限られる
所有権保存登記は、権利部の甲区にはじめて所有者を記録して保全する登記で、順位番号は必ず1番となります。
表題登記は義務づけられていますが、保存登記は任意となります。
登記名義人の氏名や住所は変更義務がありますが、保存登記や移転登記は義務ではありません。
区分建物以外の保存登記には登記原因が記録されません。
(所有権の保存の登記の登記事項等)
第76条 所有権の保存の登記においては、第五十九条第三号の規定にかかわらず、登記原因及びその日付を登記することを要しない。ただし、敷地権付き区分建物について第七十四条第二項の規定により所有権の保存の登記をする場合は、この限りでない。
出典:不動産登記法76条(2・3項は省略)
保存登記をするためには、あらかじめ表題登記をする必要があります。
保存登記をすると、甲区があたらしく作られ、表題部末尾の所有者の表示は抹消されます。
(所有権の保存の登記)
第74条 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。
一 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
二 所有権を有することが確定判決によって確認された者
三 収用(土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)その他の法律の規定による収用をいう。第百十八条第一項及び第三項から第五項までにおいて同じ。)によって所有権を取得した者
2 区分建物にあっては、表題部所有者から所有権を取得した者も、前項の登記を申請することができる。この場合において、当該建物が敷地権付き区分建物であるときは、当該敷地権の登記名義人の承諾を得なければならない。
出典:不動産登記法74条
原則として表題部所有者が保存登記を申請することができますがその他にも認められるケースがあります。
✔ 保存登記を申請できる者
・ 表題部所有者
・ 相続人等の一般承継人
・ 所有権確認の確定判決を得た者
・ 収用により所有権を取得した者
・ 債権者代位することのできる債権者
・ 区分建物の表題部所有者からの購入者
保存登記の共有持分は出資金額と整合させる
2名が1億円のマンションを8千万円と2千万円とをそれぞれ出して購入したのに、8千万円を出した1名のみの名義で登記をした場合は、2千万円が贈与されたとみなされ、贈与税を課税される可能性があります。
贈与税の課税を避けるためには、持分を5分の4、5分の1として更正登記を申請する必要があります。
更正登記をするときは、原因を錯誤として、日付は記載しません。
所有権移転登記の原因は多様
所有権移転登記とは、土地や建物の所有権が移ったときに所有者を明らかにするために行う登記です。
所有権移転の原因はたくさんあります。
✔ 所有権移転登記の原因の例
・ 売買(有償での授受)
・ 相続(遺言や遺産分割協議による)
・ 贈与(無償で贈り相手方が承諾)
・ 交換(隣地との境界線を直線にする等)
・ 寄付(自治体へ道路用地を寄付する等)
・ 財産分与(離婚後の分与・民法768条)
・ 民法第287条による放棄(承役地の所有権)
・ 民法第646条第2項による移転(地上げ等)
・ 委任の終了(権利能力なき社団の代表交代等)
・ 時効取得(善意10年・悪意20年)
権利者その他の事項欄に記録される所有権移転登記の原因には以上のようなものがあります。
✔ 法人関係の所有権移転登記の原因の例
・ 合併(消滅した会社から存続会社へ)
・ 現物出資(会社設立等で不動産を出資)
・ 寄附行為(財団法人設立のための拠出)
・ 事業譲渡(不採算部門等の他社譲渡)
・ 会社分割(拡大部門・不採算部門等)
法人が関係する場合は、加えて以上のようなものが原因となります。
✔ 官公署関係の所有権移転登記の原因の例
・ 物納(相続財産で相続税を納付)
・ 収用(公共用地を強制的に取得)
・ 譲与(贈与の官公署版・里道や水路等で)
・ 都市計画法第40条第1項の規定による帰属
官公署が関係する場合は以上の原因がみられます。
その他、旧農地法による譲与・変換・売払、戦後の農地開放のときの、自作農創設特別措置法による売渡などもあります。
相続土地国庫帰属制度などによる所有権移転登記も今後見られるようになるでしょう。移転登記の原因についての詳細は、不動産登記Q&Aで確認してください。
不動産登記Q&A(Amazon)
歴史的な背景がわかって面白いです。
新・中間省略登記をするための契約手法は2つある
中間省略登記とは、不動産について、AからBへの売買、BからCへの売買があった場合に、所有権はA→B→Cと順次移転しているにもかかわらず、中間者Bへの移転登記を省略して、AからCへ直接所有権が移転したこととする登記のことをいいます。
登録免許税が1回分なくなります。
平成17年3月の法改正により、登記原因証明情報を法務局に提供しなければ登記申請できないことになったので、従来の中間省略登記は不可能となりました。
しかし、これまでの慣行が定着していたことを鑑み、上図のような①第三者のためにする契約をつかった手法や、②買主の地位譲渡による手法などが法務省から提示されました。
AB間の売買額をCに伝えたくない場合、①が使われます。
共有に関する登記
所有権については、1人で単有するときと、複数人で共有するときとがあります。
共有するときの権利割合のことを持分といいます。
権利者その他の事項における共有の記録方法
共有に関する登記では、名義人の肩書きを所有者ではなく共有者とします。
1人目の共有者の持分のみ「持分○分の○」と記録して、2人目からは「○分の○」のみ記録します。
持分移転が重なると、分母は大きくなります。
✔ 持分の分母が大きくなる原因の例
・ 不動産購入時の支出割合
・ 繰り返し相続が発生
・ 基礎控除額範囲内の贈与
・ 個人間・同族会社間の取引
単有と共有の特徴を比較
単有ではそれぞれ所有している部分を自由に使い、処分することができます。
一方、共有では以下の特徴や制約が生じます。
✔ 共有の特徴や制約
・ 共有持分は自由に処分できる
・ 共有物分割により共有関係を解消
・ 共有者全員合意で共有物の処分・変更
・ ただし共有物の管理・変更の仕組みが令和3年法改正で整備
共有している不動産において共有者間にトラブルが生じたときは、使用や処分がスムーズにできない可能性があります。
共有持分移転に関する登記の持分の計算方法
共有持分の移転は以下3パターンがあります。
✔ 共有持分の移転パターン
・ 単有の一部を移転
・ 持分の一部を移転
・ 持分の全部を移転
上の図では、民事記子が所有していた不動産の持分を3回にわけて法務太郎に贈与しています。
民事記子の持分は5分の4、5分の3、5分の0と変化していきますが、順位1番の登記の表示は変更されません。
つまり、持分を把握するためには増減を計算するしかありません。
ただし、すべての持分が移転するときは、上の図の順位4番のとおり、「民事記子持分全部移転」と記録され、権利者その他の事項欄の肩書も「共有者」ではなく「所有者」となります。
肩書が所有者となっている順位から後ろだけ計算すればOK。
放棄した共有持分は他共有者に持分に応じて移転する
共有持分の放棄をしたときは、その持分が他の共有者に持分割合に応じて移転します。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第255条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
出典:民法255条
上の図では、不動産が相続によって3人の名義になっていましたが、法務二郎が持分を放棄しました。
二郎の名義が抜かれ、不動産は花子と太郎2人の名義となりましたが、順位2番の二郎の持分は変更されません。
花子と太郎の持分割合が3対2となっていたため、6分の1をそれぞれ5分の3、5分の2に分けて、30分の3が花子に、30分の2が太郎に移転しました。
共有物分割の登記・土地の場合は分筆して持分全部を移転する
共有物分割とは、共有物を持分に応じてそれぞれの共有者が単有するために分割することをいいます。
2人の名義となっている土地の場合は、2筆に分筆し、相手方の「持分全部移転」、権利者その他の事項欄には、移転する持分を記録します。
また、分筆して新しくできた登記には、最後の所有権移転登記を転記してから、相手方の「持分全部移転」、権利者その他の事項欄に移転する持分を記録します。
共有物分割禁止の定めは5年を超えない範囲で設定できる
共有者は、5年を超えない範囲で、共有物を分割しないことを取り決めることができます。
また、この期間は5年を超えない範囲で更新することができます。
(共有物の分割請求)
第256条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
出典:民法256条
共有物が不動産でありこの取り決めを登記する場合は、不動産登記法で、共有者が共同申請することが定められています。
(共有物分割禁止の定めの登記)
第65条 共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記の申請は、当該権利の共有者であるすべての登記名義人が共同してしなければならない。
出典:不動産登記法65条
信託の登記
不動産信託とは、不動産の所有者が委託者となり、第三者である受託者に不動産を預け、所有権も移転した上で、一定の目的のために管理・運用・処分などを委託することをいいます。
信託には、委託者・受託者のほかに、信託による利益を受ける権利である受益権を持つ受益者がいますが、特に受益者の指定がない場合は、委託者が受益者となります。
(信託の登記の登記事項)
第97条 信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所
二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
三 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
四 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
五 信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
六 信託法第二百五十八条第一項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨
七 公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条に規定する公益信託であるときは、その旨
八 信託の目的
九 信託財産の管理方法
十 信託の終了の事由
十一 その他の信託の条項
2 前項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。
3 登記官は、第一項各号に掲げる事項を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託目録を作成することができる。
出典:不動産登記法97条
信託の登記は所有権移転登記と信託登記とを同時に申請する
不動産の信託に関する登記は、所有権移転登記等(移転・保存・設定・変更)と信託登記の2つで構成されています。
信託を原因とする所有権移転登記等をして、同時に信託登記を行います。
(信託の登記の申請方法等)
第98条 信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければならない。
2 信託の登記は、受託者が単独で申請することができる。
3 信託法第三条第三号に掲げる方法によってされた信託による権利の変更の登記は、受託者が単独で申請することができる。
出典:不動産登記法98条
移転・保存・設定・変更の登記の中では、委託者が所有する不動産の所有権移転登記がもっとも多いのですが、信託事業の一環として、受託者が建物を建築して、その建物の所有権保存登記とともに信託登記をすることもあります。
信託契約の内容を要約した信託目録という書面を作成し、目録の番号を登記に記録します。
信託が終了したときは、信託登記を抹消して、委託者または受益者に所有権をもどします。
原因は、信託財産引継とします。
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