緑肥のしくみを学び、pH測定で土の違いを比較!
娘が冬野菜の収穫体験で訪れた畑には、夏に咲いていたはずのヒマワリの姿がどこにもありませんでした。
あれだけ大きなヒマワリが跡形もなく消えてしまったのはなぜ?
その謎を解くため、畑から持ち帰った土を使って植物の分解実験を行いました。
実験のきっかけ:消えたヒマワリの謎
大根やカブ、サツマイモ、キャベツなど、冬は丸々と太った野菜がとれる季節です。
娘は、学童のイベントに参加して、冬野菜の収穫体験をするために、千葉県のカズサ愛彩ガーデンファームをおとずれました。
そのとき、ファームの方から興味深いお話をうかがいました。
夏に育てたひまわりが緑肥になった
カズサ愛彩ガーデンファームは観光農園で、たくさんの人に楽しんでもらえるように、夏の間、冬野菜を育てるスペースにひまわりを植えています。
そして、花が終わる前に、そのまま土にすき込んで緑肥(りょくひ)にするのだそうです。
冬の畑の土を持って帰ってきた

ヒマワリの茎は太くて硬いので、冬の畑の土に、その痕跡が残されているかもしれません。
収穫体験のときに、ファームに許可を得て、土を少しもらって帰り、観察してみました。
土の中にひまわりの痕跡を探してみた

ところが、家でバットに土をひろげ、ひまわりを探してみましたが、まったく見当たりません。
完全に分解されてしまったようです。
畑の土には、植物を分解する微生物がたくさん住んでいるので、ひまわりはすっかり姿を消してしまっていました。
それなら、この土にまた植物を入ても、同じように分解されるのではないでしょうか。
ということで、畑の土に含まれる微生物が、実際に植物を分解する力を持っているのかを確かめることにしました。
緑肥ってなに?植物を肥料にする農業の知恵
緑肥とは、育てた植物を収穫せずにそのまま土にすき込み、次の作物の肥料にする方法です。
ひまわりのような大きな植物をすき込むには、まずフレールモアというマシンでひまわりを粉砕します。
そして、プラウ(鋤)やロータリーなどで天地返ししたり、混ぜ込んだりして、土の中でひまわりが分解していくようにします。
緑肥が畑を豊かにするしくみ
植物が土の中で微生物に分解されると、葉や茎に含まれていた栄養分が土になり、次に育てる野菜の栄養になります。
化学肥料を使わずに土を豊かにできる、昔ながらの農業の知恵なのです。
ヒマワリ以外にもいろいろな緑肥がある
実は、緑肥に使われる植物はひまわりだけではありません。
マメ科の植物は緑肥の代表格です。クローバー、レンゲ、クロタラリアなどは、根っこに住む「根粒菌」という菌が空気中の窒素を取り込んで土を肥やしてくれます。
イネ科のソルゴーやエンバクは根がたくさん張るので、土をふかふかにする効果があります。
アブラナ科のカラシナは、害虫を寄せ付けない成分を出すことで知られています。
ひまわりを選択するメリット
ヒマワリはキク科で、根から出す物質が土の中のリン酸を植物が吸いやすい形に変えてくれる特長があります。
関東ローム層の土はリンを吸着してしまうので、ひまわりはもってこいです。
観光農園では「見た目の美しさ」と「土づくりの効果」を両立できる、まさに一石二鳥の存在なのです。
すき込むタイミングが大切

緑肥をすき込むときに重要なのは「枯れる前に」土に混ぜることです。
植物が枯れて茶色くなると、茎や葉が硬くなり、微生物が分解するのに何ヶ月もかかってしまうのです。
愛彩ガーデンファームでも、9月には冬野菜の種まきをするため、夏の終わりには急いでヒマワリを処理したはずです。
実験の準備と方法
ということで、今回は、キャベツをつかって分解実験をしてみました。
用意したもの

畑から採取した黒っぽい湿った土、ジップロック、キャベツの芯を1cm角に切ったもの5個、霧吹きを準備しました。
実験の手順

ジップロックに畑の土を入れ、1cm角に切ったキャベツを5個埋めました。
最初の1週間は、デスクの上に置いて観察しましたが、まったく変化がありませんでした。
そこで、土が乾きすぎないよう霧吹きで水分を補給し、時々袋を開けて新鮮な空気を入れ替えながら、浴室乾燥中の浴室など温かい場所に置いて2週間観察を続けました。
2週間後の結果:キャベツはどうなった?
袋を開けて土を掘り返してみると、驚きの結果が待っていました。
観察結果

5個入れたキャベツのうち、1個は完全に姿が見えなくなりました。
まるで溶けて消えてしまったかのようです。
残り4個のうち3個は四角い形を保っていましたが角がとれ、表面には土が付着して黒ずんでいました。
そして1個は角が欠けて、一部が崩れた状態で発見されました。
実験からわかったこと
3週間で1個のキャベツ片が完全に消えたことから、畑の土には確かに有機物を分解する微生物が住んでいることが確認できました。
分解には条件が必要

5個すべてが同じように分解されなかったことから、分解には緑肥の厚みや細かさなど、表面積のおおきさが関係していると思われます。
実際の畑では、トラクターでヒマワリをかなり細かく粉砕しながら土にすき込みます。
表面積が大きくなれば、それだけ微生物が取りつきやすくなり、分解もはやく進みます。
なぜひまわりはほとんど分解されたのか

酸素や水分、温度などの条件が揃う必要があることもわかりました。
ひまわりがすき込まれたのは夏の終わりでまだまだ暑い季節でした。
畑は常に空気と水分が適度に保たれている「団粒構造」の土なので、ジップロックの中よりも微生物が活発に働ける環境だったと考えられます。
畑の土と食堂の土、何が違う?pH試験紙で比較
ファームの方に詳しくお話を聞いたところ、畑の土は単純な自然の土ではないことがわかりました。
君津の畑の土のひみつ
もともとこの地域は「関東ローム層」と呼ばれる茶色い火山灰土が広がっています。
そこに表層でできる「黒ボク土」を混ぜ、さらに状況に応じてさまざまなものを加えて調整しているそうです。
では、人の手が加えられた畑の土と、そうでない土では何が違うのでしょうか。
そこでpH試験紙を使って酸性・アルカリ性を比べてみることにしました。
pH測定の結果

比較したのは以下の3つです。
- 土壌実験のサンプル構成
-
- ① テントが張られた食堂エリアの土
- ② 畑から採取した土
- ③ 比較対照用の水道水
それぞれの土を水に溶かして、pH試験紙をひたし、色の変化をみてみました。
すると、食堂の土はpH5程度のオレンジがかった色で酸性をしめしたのに対し、畑の土はpH7付近の黄緑色で水道水と同じ色、つまりほぼ中性でした。
畑の土が中性に調整されていることがよくわかります。
なぜ畑の土は中性なのか

関東ローム層の土は、もともと酸性が強いという特徴があります。
酸性の土では多くの野菜がうまく育ちませんし、微生物の活動は中性付近で最も活発に働きます。
そこで農家さんは石灰などを混ぜて土を中性に近づけているのです。
枯れた植物は分解されにくいのか
今回の実験では畑の土の分解力を確認できましたが、新たな疑問も生まれました。
緑肥は「枯れる前にすき込む」のがポイントだと学びましたが、本当に枯れた植物は分解されにくいのでしょうか?
割り箸と爪楊枝で比較実験
そこで次は、キャベツと一緒に「割り箸」や「爪楊枝」を土に埋めて比較してみたいと思います。
割り箸や爪楊枝は木でできていて、枯れて木質化した植物と同じような状態です。
割り箸や爪楊枝の分解の様子を観察すれば、ファームでヒマワリを「緑色のうちに」すき込む理由が、自分の目で確かめられることになります。
加熱した土との比較も
もう一つ試してみたいのが、「加熱して殺菌した土」との比較です。
フライパンで炒めるか電子レンジで加熱した畑の土にキャベツを入れたら、どうなるでしょうか。
もし分解が進まなければ、やはり分解の主役は「目に見えない生き物=微生物」だということが証明できます。
まとめ

夏のヒマワリが冬には消えてしまう謎を追いかけて、畑の土でキャベツの分解実験に挑戦しました。
また、緑肥という農業の知恵についても学びました。
私たちが日々いただいている野菜は、緑肥が土に還り、微生物によって栄養に変えられたおかげでおいしく育ったのかもしれません。
食卓に届くまでの「命のリレー」を、小さな実験を通じて感じることができました。
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